「矢口新」という名前と一緒に、投資哲学を紹介する書評記事を見かけた——そんな人に、まず伝えておきたいことがある。 タダシが公開情報で確認した範囲では、矢口新氏は野村證券やソロモン・ブラザーズなどでディーラーを務め、『実践 生き残りのディーリング』など複数の著書を持つ実在の投資家だ。 国立国会図書館の書誌情報でも、著書の実在を確認できた。 ただ、この書評記事を読んでいくと、あるところで一度立ち止まりたくなった。 記事の冒頭・中盤・末尾、合わせて3箇所に、株選びナビが過去2回にわたって確認してきたのと同じ「資産7.7倍増の投資術」バナーが置かれていたのだ。 しかも、記事のいちばん下にはもう一つ、別の遷移先を持つバナーもあった。 ただ、止めもしないし、押しもしない。 矢口新氏本人の経歴や著書と、記事に貼られたバナーの中身は、タダシと一緒に別々に確かめておきたい。 なお、この記事は矢口新氏やバナーの遷移先サービスを違法・詐欺と断定するものではない。 タダシが公開情報で確認できた事実と、確認できなかったことを分けて、淡々と整理していく。
投資家・矢口新の著書と投資哲学を紹介する書評記事の中に、株選びナビが過去2回確認してきた「資産7.7倍増の投資術」バナーが今回も置かれていた。 矢口新氏自身の経歴・著書は公開情報で実在を確認できた一方、記事の最後にはさらにもう一つ、別の遷移先を持つバナーも見つかった。
この記事の目次
「矢口新の評判」記事を読んでいて、まず一度立ち止まりたい理由
「矢口新の評判を多角的に分析」——そんなタイトルの書評記事を読んで、ひとつだけ立ち止まりたいところがあった。 矢口新氏の代表作『実践 生き残りのディーリング』や『矢口新の短期トレード教室』を軸に、投資哲学の肯定的な評価と否定的な評価を両方紹介する、一見中立的な作りの記事だ。
ただ、今回タダシが確かめたいのは、矢口新氏の投資哲学の中身そのものではない。 この記事の冒頭の紹介文を読み終えた直後、本文の解説が始まるより先に、 「初心者でも大丈夫!億り人が教える『資産7.7増の投資術』」 という誘導バナーが目に入る。 矢口新氏の話は、まだほとんど始まっていない段階だ。
同じバナーは、記事の中盤・末尾にも置かれていて、合わせて3箇所確認できた。 クリックすると、stock-info.jimdofree.comという、記事とは別のドメインへ移動する作りになっている。
実は、株選びナビがこのバナーを見るのは今回が初めてではない。 投資家STFの経歴は本物?記事内の誘導バナーを確かめる、「元証券マンITSUKI」は本物?投資スクール記事の誘導バナーを確かめる——この2本の記事で、タダシはすでに同じバナーの遷移先を確かめている。 今回で3件目の確認になる。
矢口新氏の投資哲学の話と、記事に貼られたバナーの中身は、本来は別の話のはずだ。
ここを一緒くたにしないことが、今日確かめておきたいことの出発点になる。
著名な投資家の書評だから、隣のバナーも信頼できるという思い込みは、いったん外しておきたい。
この先の項目で、順番に見ていこう。

矢口新氏について、タダシが公開情報で確認できたこと
結論を急ぐ前に、矢口新氏本人について、タダシが公開情報で確認できたことを整理しておきたい。
まず確認できたのは、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)などで、為替・債券ディーラーや機関投資家セールスを務めたという経歴だ。 複数の独立したメディアで、内容が一致する記述が見つかっている(出典:マネーボイス「AIに仕事を奪われた元ゴールドマンの株トレーダー、いまは何をしている?=矢口新」)。
2002年5月には株式会社ディーラーズ・ウェブ(投資顧問業)を創業し、2013年5月まで代表取締役社長を務めたという記述も、複数の媒体で確認できた。 ただし、証券会社側の公式発表など一次資料までは、タダシが探した範囲では見当たらなかった。 出版社・メディア発の経歴紹介に基づく情報であることは、正直に書いておきたい。
著書についても確認してみた。 『実践 生き残りのディーリング』(パンローリング、2007年)は、国立国会図書館サーチの書誌情報に登録がある(出典:国立国会図書館サーチ)。 『矢口新の短期トレード教室』(パンローリング、2018年)も同様に、書誌情報で実在を確認できた(出典:国立国会図書館サーチ)。 『値上がる株に投資しろ!』(パンローリング)も、Amazon等の商品ページで実在を確認できた。
2013年にディーラーズ・ウェブの代表を退いた後は、投資教育の講師業やラジオ配信が中心という記述も見られた。 ただし、タダシが探した範囲では、矢口新氏本人または関連会社が現在、金融庁登録の投資助言・代理業を営んでいるという一次資料は見当たらなかった(出典:金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」)。 これは矢口新氏が違法な業務を行っているという意味ではない。 書籍の執筆や講演は、投資助言業の登録を必要としない活動だ。
詐欺や行政処分といったネガティブな公的情報も、消費者庁・国民生活センターの公開資料を探した範囲では、矢口新氏に紐づく記載は見当たらなかった。 経歴・著書ともに、タダシが辿れた範囲では、実在の人物・実在の書籍だったと正直に書いておきたい。
- 経歴:野村證券・ソロモン ブラザーズ等でディーラー歴(出典:メディア紹介記事)
- 著書:『実践 生き残りのディーリング』『矢口新の短期トレード教室』ほか多数(国立国会図書館サーチで実在確認)
- 現在の活動:投資教育の講師・情報発信が中心と紹介されているが、金融庁登録の投資助言業者としての一次資料は見当たらなかった
- ネガティブ情報:消費者庁・国民生活センターの公開資料には、矢口新氏に紐づく記載は見当たらなかった
3箇所に置かれた「資産7.7倍増の投資術」バナーの遷移先を、改めて確かめる
この「資産7.7倍増の投資術」バナー、タダシは過去2回、遷移先を実際に確かめている。 「元証券マンITSUKI」は本物?投資スクール記事の誘導バナーを確かめるでは、遷移先のstock-info.jimdofree.comを直接調べ、次のことを確認できた。
サイト名は「Stock Info」、責任者名は「元村正樹」。 一方で、住所・電話番号の記載は見当たらず、連絡先は問い合わせフォームのみだった。 「元証券マンITSUKI」を名乗る人物の経歴(旧帝大卒・国内大手証券10年・現在運用資産30億円)も、本人の自己申告以外に裏付ける資料は見つからなかった。
金融庁の無登録で金融商品取引業を行う者の名称等についてで「ITSUKI」「Stock Info」「元村正樹」を検索したが、いずれも該当なしだった。 ただし金融庁自身が「掲載されていない者でも、無登録営業に該当する行為を行っていることがあり得ます」と明記している。 載っていないことは、安全の証明にはならない。
今回タダシが新しく確認できたのは、このバナーが矢口新氏の書評記事にも、まったく同じ形で置かれていたという事実だ。 投資スクールの是非を論じる記事、著名投資家の経歴紹介記事、そして今回の書評記事——テーマはそれぞれ違う。 それでも、貼られている広告だけは同じだった。 詳しい調査内容は、上記の既存記事にすべて書いてある。 ここで同じ調査を繰り返すことはしないが、気になった人はあわせて確認しておきたい。
もう一つのバナー、「TSUKASA」の遷移先も確かめる
記事のいちばん下、SNS共有ボタンやサイトマップよりさらに下の位置に、 「資産7.7倍増↑元証券マンが教える【禁断の投資術】とは?」 という、見た目の違うもう一つのバナーが置かれていた。
こちらのリンク先は、tsukasa-stock.jimdofree.comという、これまでの2記事では確認していなかった新しいドメインだった。 タダシは実際にアクセスして、中身を確かめてみた。
ページの見出しには、こう書かれていた。 「資産15億円超の凄腕トレーダーTSUKASAとは?異次元の利益を叩き出す『相場の呼吸』と勝てるロジックの正体に迫る」 元商社マンで投資歴20年、2014年に運用額2億円を達成しFIREした——という経歴が紹介されている。 ただし、これも本人の自己紹介の域を出るものではなかった。
運営者情報を探して「概要」ページも開いてみた。 ところが、そこにあったのは会社名・責任者名・連絡先といった情報ではなく、Jimdo(ホームページ作成サービス)の説明文がそのまま残っているだけだった。 住所も電話番号も、運営者名すら、タダシが確認した範囲では見当たらなかった。
LINE登録ボタンのリンク先を確認すると、lin.ee/tFx3rKHという、LINE公式アカウントへ直接つながるURLだった。 ITSUKI氏のケースで見た「ialoop.net」のようなトラッキングサービスは経由していないが、運営者情報の乏しさは、むしろこちらのほうが目立つ。
- 遷移先ドメイン:tsukasa-stock.jimdofree.com(stock-info.jimdofree.comとは別ドメイン)
- 運営者名・住所・電話番号:概要ページに記載なし、Jimdoのデフォルト文言のみ
- 登録ボタンの遷移先:lin.ee/tFx3rKH(LINE公式アカウントへ直接)
- 経歴の裏付け:「資産15億円」「運用歴20年」等はいずれも本人の自己紹介にとどまり、第三者の裏付けは見当たらなかった

「無登録リストに載っていない」=「安全」ではない、という注意書き
金融庁は、無登録で金融商品取引業を行う業者の名称を公表している。 タダシは「TSUKASA」「tsukasa-stock」といった名称でも検索してみたが、該当は見当たらなかった。
ただし、これまでの2記事でも書いたとおり、金融庁自身が「掲載されていない者でも、無登録営業に該当する行為を行っていることがあり得ます」と明記している。 「載っていたら危険」を教えてくれるものであって、「載っていなければ安全」を保証するものではない——ここは繰り返し確認しておきたい。
確かめるべきは「リストに名前があるかどうか」ではなく、登録の有無そのものだ。 金融庁の免許・許可・登録等を受けている事業者一覧や、金融事業者一括検索で、運営者名を自分の目で確かめておくのが筋だ。

実在の著者・実在の書籍の“すぐ隣”に置かれる投資勧誘は、公的統計でも増えている
金融庁はSNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘等にご注意くださいというページで、こうした手口の型を四段階に整理している。 まず、著名人や専門家の写真・肩書きを使った偽アカウント・偽広告が作られる。 次に、そのSNS上の広告やURLをきっかけに、LINEグループへの参加やサイトへのアクセスへ誘導される。
グループの中では特定の銘柄への投資が勧誘され、口座開設や入金を求められる。 出金しようとする段階になって、手数料や税金の名目で追加の入金を要求される——という流れだ。
国民生活センターは、SNSをきっかけに著名人を名乗る・つながりがあるなどとして勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増したと公表している。 相談件数は2021年度の52件から2023年度には1,629件へと、急増している。
これは、矢口新氏の書評記事そのものが同じ手口だと断定するものではない。 タダシが確認できたのは、記事の中身とバナーの並びまでで、それ以上のことは言えない。 ただ、実在の著者・実在の書籍という信頼性の高そうな文脈にも、投資勧誘のバナーが同居するという事実は、押さえておきたい。

判断するときに押さえたいこと
ここまでのチェック項目を、あなた自身の手で埋めてみてほしい。 ✓が付かない欄が多いほど、立ち止まる理由は増えていく。 タダシが確認できたのは、矢口新氏が野村證券やソロモン・ブラザーズなどでディーラーを務め、複数の著書を持つ実在の投資家だということ。 そして、その書評記事の冒頭直後・中盤・末尾に置かれた「資産7.7倍増の投資術」バナーは、株選びナビが過去2回確認済みの遷移先と同じだったこと。 さらに記事の最後には、運営者情報がほとんど見当たらない、もう一つの「TSUKASA」バナーもあったこと——ここまでだ。 矢口新氏やバナーの遷移先サービスを詐欺だと決めつけているわけではない。 ただ、実在の著者の話と、記事に貼られた広告の中身は、別々に確かめる必要がある。 最終的に判断するのは、あなた自身。 ただ、その判断材料を増やすお手伝いだけは、タダシがします。
- 書評記事や経歴紹介記事に貼られたバナーの遷移先が、紹介されている本人と同じ運営元かどうかを確認したか
- 遷移先ページの運営者情報に、住所・電話番号など自分の目で確認できる記載が揃っているか確かめたか
- 運営者名を、金融庁「金融事業者一括検索」・無登録業者の名称公表で確認したか
- 同じ、または似た「資産7.7倍増」系のバナーが、内容の異なる複数の記事に挿入されていないか、記事を横断して確認したか
出典・参考情報
- 国立国会図書館サーチ「実践生き残りのディーリング:変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ」書誌情報 ↗
- 国立国会図書館サーチ「矢口新の短期トレード教室」書誌情報 ↗
- マネーボイス「AIに仕事を奪われた元ゴールドマンの株トレーダー、いまは何をしている?=矢口新」 ↗
- 金融庁「SNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘等にご注意ください!」 ↗
- 金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」 ↗
- 金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」 ↗
- 国民生活センター「SNSをきっかけとして、著名人を名乗る、つながりがあるなどと勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増」 ↗

タダシ
情報をひとつに絞らず、運営情報・料金・条件をそれぞれ確かめてみてください。判断に迷う点があれば、一緒に整理します。